雑記帳

チ。 ―地球の運動について― 第20話

2025-02-15 12:39:03
目次

ドゥラカ「なぜあなたは人生も天国も棒に振ってまでこんなことをしてるんですか?」
レヴァンドロフスキ「死だ 死を受け入れるためだ 俺にはな 妹がいた 10歳そこらで病に倒れた ま よくある話だよ 幼いあいつは 死ぬ間際に一言 極めて短く 静かに 究極の問いを投げた 私は何のために生まれたの? 俺は思った 神のためだ 天国へ行くためだ 人は死ぬ じゃあ何で生まれたのか その問いに答えるため 神や宗教はある でも俺は言えなかった そして何も言えねえまま 妹が死んだ あの日以来 胸を張って 神のためって言えるようになるにはどうすればいいか考え続けた その帰結として今こんなことをしてる 少なくとも異端を迫害するのは神じゃねえ 人だ 誰もそれを主張しないなら俺がする そうしなきゃ妹に神のためって言えねぇままだ 隊長には言わねえが 宗教は大切だ 宗教がなきゃ きっと人はここまで強くなかった 遠く離れたどこかにも同じ神を信じる人がいる それだけでどれだけ心強いか だが 教会が設立されてから長いこと時間が経った こうなると 経年劣化は免れねえ いろんな辻褄が合わなくなってきて あちこちで時代がきしむ音がする 俺らはきっと変革期に立ち会ってる だから俺は自分の使命ってものを探して 実践してるつもりだ この道を進めば 妹の死を受け入れられると信じてる 死を忌避するんじゃなく肯定したい それが俺の人生の命題だ。」

ドゥラカ「一体 何をそこまで人工のものを嫌うんですか?」
シュミット「簡単だよ 私の故郷では神の解釈の違いで殺し合いが生じ 家族が殺された そんなことがあちこちでよく起きてる これは異常としか思えない 問題の原因 根本を潰すしかない これらの全ては人工が引き起こした惨事だ 人工の社会 人工の掟 人工の神 人の作るものなど醜い模造品しかない この雄大な自然を見ればわかるだろう かなわないと 人は1から何も作り出せない その上人が自然の力を借りて作るものは 馬車 石弓 火薬 どれも醜い兵器ばかり プラトン曰く 人の作る模倣物は遊びのようなもので 真剣に従事することじゃない 神の想像物だけが本物だ 人がつけあがり 自然を理解したなどと勘違いするための技術など不要 繰り返すが 私は人の知性を信じていない。」
ドゥラカ「アリストテレスも技術は自然を模倣すると言ってる でも一方でこうも言ってる 技術は自然が成し遂げないことも成し遂げると。」

ドゥラカ「私を信用できますか? 私にはあなたの過去とか これまでの歴史とか関係ない シュミットさんたちに頼めばいいじゃないですか こんなもの またすぐ燃やすかもしれない なんで私に?」
ヨレンタ「あなたは若いから 別の言い方で言うと 今はあなたたちが歴史の主役だから だからあなたに託す。」
ドゥラカ「は? だから勝手に巻き込まないでくれます 私はその歴史ってのに...」
ヨレンタ「関係ある 人は先人の発見を引き継ぐ それもいつの間にか勝手に 自然に だから今を生きる人には過去の全てが含まれてる なぜ人は記憶にこだわるのか なぜ人は個別の事象を時系列で捉えるのか なぜ人は歴史を見いだすことを強制される認識の構造をしているのか 私が思うにそれは神が人に学びを与えるためだ つまり歴史は神の意志のもとに成り立ってる。」
ドゥラカ「神の意志 何ですか?その意思って?」
ヨレンタ「聖書に書いてある 神はこの世にある悪を善に変える それが神の意志 神は人を通してこの世を変えようとしてる 長い時間をかけて少しずつ この今はその大いなる流れの中にある とどのつまり 人の生まれる意味は その企てに その試行錯誤に 善への鈍くはてしないにじり寄りに 参加することだと思う 悪を捨て去ることなく飲み込んで直面することで より大きな善が生まれることもある 悪と善 2つの道があるんじゃなく全ては一つの線の上でつながっている そう考えたら かつての 浮き伏せさえも 何も無意味なことはない でも歴史を切り離すとそれが見えなくなって 人は死んだら終わりだと有限性の不安に怯えるようになる 歴史を確認するのは神が導こうとする方向を確認するのに等しい だから過去を無視すれば道に迷う。」
ドゥラカ「抽象的すぎる。」
ヨレンタ「私には 具体的な問題。」
ドゥラカ「どこが?」
ヨレンタ「歴史認識は私の決断に関わるから 例えば 私の父は異端審問館だった 私は父と全く違う道を歩いた 今父が何をしているのかは知らない 生きてるのか そうじゃないのかすらね もう二度と会うことはないだろうけど 時々想像する もし今の私が父と対峙したら 道を阻まれたら どうなるだろうって 考えただけでそれは人生最悪の瞬間で 混乱して平静を失うと思う でも その時にこそ正しいと思った選択をしなきゃいけない きっとその一瞬の選択のために私の数奇な人生は存在する 積み上げた歴史が 私の動揺を鎮めて 臆病を打破して 思考を駆動させて いざって時に引かせない 全歴史が私の背中を押す。」
ドゥラカ「何であの本のためにそんな理屈こねてまで?」
ヨレンタ「私は地動説を愛してる そして 愛してしまったことを祝福したいから。」
ドゥラカ「そんなの幼稚だ。」
ヨレンタ「そう だからあなたが乗り越えて。」

シュミット「ならばいずれ直面するはずだ 信念を貫く難しさに 信念には対価が必要だ 命をかけられないなら口だけだ ここから先は 情と両立して進められる領域ではない。」

この記事を書いた人

ろく