雑記帳

チ。 ―地球の運動について― 第23話

2025-03-08 17:09:57
目次

ノバク「神を捨て金か 金さえ稼げれば全て肯定される 君はそんな時代がいいと思うのか 解放戦線の組織長が火薬を使って自爆するところを見た あの光景を見て悲劇的だと思わないものがいるか 知性や技術が進歩した先はあの爆発だ 文明や理性の名のもとでは 神の名のもととは比べ物にならない規模の大虐殺が起こせる わかるか 神に進むべき道を与えられなくなった人間の末路が 神を失ったら人は迷い続ける。」
ドゥラカ「ええ でもきっと迷いの中に倫理がある その組織長の言葉だ 私だって これから平和が訪れると思わない あなたの言う通り 次に来るのは 大量死の時代かもしれない でも その死の責任は神じゃなくて人が引き受ける だから そこにはきっと罪と救いじゃなく 反省と自立がある そうやって苦しみを味わった知性を いずれ十分迷うことのできる知性になる 暴走した文明に歯止めをかけて異常な技術も乗りこなせる知性になる。」
ノバク「呆れるほど楽観的だ。」
ドゥラカ「ええ でも私は 私を裏切った恩人から言われたことがある 神なしの世界で考えろって 私はそれで道が開けるって信じたい それに あなたは最も重要なことを忘れてる きっと社会から神が消えても 人の魂から神は消せない。」
ノバク「見た目通り子供だ のんきで健気でわがまま 話にならない子供だ。」

ラファウ「まぁしょうがないですよ それぞれの状況の中でやれることをやった お互いにね。」
ノバク「お互いじゃない 君と私は大きく違うんだ 同じ立場じゃない地動説が異端じゃないと言われて気づいたよ 全く予想外だったが 私は 私はこの物語の悪役だったんだ くそう 全く驚きだ。」
ラファウ「確かに 確かに僕らは敵対した関係でしたね この世には様々な人がいる 正直者も嘘つきも情けない奴も勇敢な奴も さらに驚きなのが 1人の人間にその全ての要素が入ってることもあるし それらが日々変化したりもする こんなに大勢いるのに誰一人 同じ人はいない そりゃ 争いは絶えないでしょ でも だけどです 過去や未来 長い時間を隔てた後の彼らから見れば 今いる僕らは所詮 皆おしなべて 15世紀の人だ 僕らは気づいたらこの時代にいた 別の時代でも良かったのにこの時代だった それはただの偶然に過ぎないけど 奇跡的であり 運命的なことだ 僕は同じ思想に生まれるよりも 同じ時代に生まれることの方が よっぽど近いと思う だから絶対そんなわけないと思いつつも 感情と理屈に拒絶されようとも こう信じたい 今 たまたまここに生きた全員は たとえ殺し合うほど憎んでも 同じ時代を作った仲間な気がする。」
ノバク「同じ時代を作った仲間… それは私を慰めてくれてるのか。」
ラファウ「もちろん 僕はあなたが作り出してる幻ですし。」
ノバク「どうも でもそれに甘えちゃいけない 私は 私は本当は君に思ってたことがあるんだ しかしそれは 君ら異端には感じてはいけない感覚だ だから忘れたふりをして生きてきた。」
ラファウ「なんですか?」
ノバク「痛みだ あの時君の選択を見て気の毒に思った 死を選ぶな 自分の信念や他人の信仰に殺されるには若すぎる そう思った。」
ラファウ「そうですか 僕の考えとは違いますね ま だからこそ覚えておきますよ。」
ノバク「あぁ あれは神から与えられた 最初で最後の機会だったのかもしれない でもその感情をめんどくさがって無視したんだ だからやっぱり私は悪役なんだ。」
ラファウ「あと何か言いたいことありますか? たぶんもうここもつぶれるし あなたも死にますよ。」
ノバク「君 物知りだろう だったら頼む 最後に教えてくれ 私の娘は天国に行けたのか?」
ラファウ「さぁ ずいぶん前に言ったでしょう 死後のことは誰も知らない でも そうなって欲しいなら あなたがまだ生きてるうちに すべきだと思うことをしてください やり残したことを ではさよなら。」

アルベルト「学問なんてどうしようもないですよ 無意味だ いや それどころか害悪ですよ 好奇心は人を飲む 研究なんて いずれ自己目的化して暴走する 早い話関わらない方がいい。」
親方「まあ 確かにお前の昔の辛さは俺にはわからねえ もうちっと気ぃ使うべきだったな。」
アルベルト「ええ 気持ちはありがたいですが もう忘れたいんです 昔のことは 僕は生活 さえできれば十分満足です 他に何も望みません。」
親方「ちょっと待て じゃあなんで アストロラーベを捨てねえんだ?」

この記事を書いた人

ろく